「また広告が出た」——毎日の不満が、開発の火種になった
料理アプリを開いた瞬間、画面の半分を覆う広告。スクロールするたびに邪魔をする動画。お気に入りのレシピを保存したくても、会員登録を求められる壁。毎日当たり前のように使いながら、その度に蓄積される小さな「不満」がありました。 「自分が本当に使いたいアプリは、こういうものじゃない」。その確信はあっても、コードを一行も書けない非エンジニアにとって、アプリ開発とは「選ばれた人たちの特権」だという固定観念が邪魔をしていました。 しかし、2023年にChatGPTが世界に登場し、私の固定観念は音を立てて崩れ始めました。「これなら、AIを先生に、自分でも作れるんじゃないか」。その直感と少しの無謀さが、全ての始まりでした。

Unityという「巨大スタジオ」に足を踏み入れる
最初にUnityを起動した時の感動と絶望は、今でも鮮明に覚えています。画面を埋め尽くすパネルとボタン。英語のメニュー。何をどこでどう設定すればいいのか、全く分かりませんでした。 AntigravityにUnityの画面を見せながら「何も分からないので、最初に知っておくべきことだけ教えて」と訊くと、驚くほど整理された解説が返ってきました。「まず、Hierarchy(ヒエラルキー)がゲームの舞台に立つ俳優のリスト。Inspector(インスペクター)は、その俳優の衣装や台本を設定する場所です」という比喩は、私の理解を一気に深めてくれました。 AIは単にコードを吐き出すのではなく、私の理解度に合わせて概念を再定義し、常に「次の一手」を照らしてくれる。最初の1週間は、開発というよりAIとの哲学的な対話の連続でした。
消えたハートアイコンとの、48時間の格闘
開発の中盤で、最も心が折れそうになった事件が起きました。「お気に入りボタン(ハートアイコン)」が、実機ビルドのたびに忽然と消えてしまうのです。Unityエディタ上では完璧に見えているのに、スマートフォンで動かすと跡形もない。あるいは不気味な「灰色の四角形」として現れることもありました。 「パスが間違っているのか?」「画像フォーマットの問題では?」「Unityのバージョンの差異?」——思いつく限りの可能性をAIに投げ、数百回の設定確認を繰り返しました。それでも解決しない48時間は、非エンジニアにとって最も過酷な「理屈では合っているはずなのに動かない」地獄でした。 そしてAIが最後に導き出した原因は、Unityの内部的なアセット管理の仕組みにあったのです。

「Texture2D」から「Sprite」へ——見えない壁の正体
AIとの長い対話の末、ついに原因が判明しました。外部フォルダから画像を読み込む際、Unityはそれを単なる「画像データ(Texture2D)」として認識するのですが、UIで使える「スプライト(Sprite)」としては認識してくれないという落とし穴があったのです。 人間で言えば「写真データとしてのあなた」と「劇の舞台に立てる俳優としてのあなた」の違い。Unityの世界では、その変換を明示的に行う必要がありました。
// AIと共に作成した、画像をスプライトに動的変換するコード
// これ一つで「消えるアイコン」の悪夢から解放された
public void LoadBookmarkIcon(string fileName) {
// Resourcesフォルダから「画像データ」として読み込む
Texture2D texture = Resources.Load<Texture2D>("Icons/" + fileName);
if (texture != null) {
// 画像データを「UIで使えるスプライト」へ明示的に変換する
Sprite newSprite = Sprite.Create(
texture,
new Rect(0, 0, texture.width, texture.height),
new Vector2(0.5f, 0.5f) // ピボット(中心点)の設定
);
// 変換されたスプライトをUIイメージに割り当てる
targetImage.sprite = newSprite;
}
}「手が離せない」現場のためのUI哲学
技術的な問題を乗り越えた後、私が最もこだわったのはUIデザインの哲学でした。このアプリのユーザーは「調理中の自分」です。手が濡れている、蒸気で画面が曇る、コンロから目が離せない——そんな過酷な現場で、確実に情報が届くUIが必要でした。 AIに「料理中に片手で操作することを前提としたUIの原則を教えて」と問うと、「タップターゲットは最低44px」「コントラスト比は4.5:1以上」「1スクロール内で主要情報を完結させる」という、アクセシビリティの基準まで教えてくれました。 デザインとは「見た目の美しさ」だと思っていましたが、AIは「使われる文脈への思いやり」こそがデザインの本質だと教えてくれました。
完成した瞬間に生まれた、次の問い
アプリが完成し、初めて自分のスマートフォンで自分のレシピを確認した瞬間。それは単なる達成感ではなく、世界が広がる感覚でした。「自分が不満に思っていたものを、自分の手で解決できた」という、かけがえのない体験。 しかし同時に、新たな欲求が溢れ出しました。「次は家族にも使ってもらいたい」「レシピの検索機能を付けたい」「iOSにも対応させたい」。開発の終わりが、新しい始まりの号砲でした。 ゼロからプロダクトを作り上げる喜びを知った今、私の中から「自分には無理だ」という言葉は永遠に消えました。AIと共に歩む限り、創造に限界はないのです。
